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Lexile(レクサイル)指数といえば、洋書の英語レベルを知りたいときに使われる代表的な指標です。
各方面でおすすめされているようですが、これをベースに洋書を選ぶと失敗する可能性も高いので、うのみにするのは危険です。
翻訳者のmachaがLexile指数を使う場合の注意点をまとめてみました。
Lexile指数って何?

アメリカのMetaMetrics社が開発した「読解力」および「文章の難易度」を示す指標です。
全米の小学校~高校のほか、Amazonなどでも採用されています。
本のLexile指数の調べ方
調べる方法が少しわかりにくいです。
1.Lexile公式サイトのトップページへいって、右上の「Lexile Tools」バーの中にある「Find a Book」をクリックしてください。本の検索ページが出てきます。

2.「Quick Search」ボックスに書名や作者名、キーワードなどを入力して検索すると、検索結果ページに、ページ数や対象年齢、Lexile指数などが出てきます。
(その下のボックスでは、自分の学年やLexile指数から本を探すこともできます)

自分のLexile指数の測り方
自分のLexile指数(読解レベル)を知りたいときは、TOEFLやTOEICの点数のほか、Amazonサイトのサンプルテキストをもとに調べることができます。
自分の英語レベルに合った本を探すときに使います。
公式サイトによると、自分のLexile指数のマイナス100~プラス50の範囲の本が学習に向いているとされています。
たとえば、自分のLexile指数が800Lなら、700L~850Lの範囲内にある本を選ぶとよいということです。
レベル表示の見方は?
Lexile指数は通常、0L~2000Lくらいのスケールで表示されます。
数字が大きくなるほど、難易度が上がります。
専門書だと2000Lを超えるものもあるとか。
アメリカの学年に対応させるとこんな感じです(※Amazonサイトの分類)。
1年生 (-300L)
2年生 (140L-500L)
3年生 (330L-700L)
4年生 (445L-810L)
5年生 (565L-910L)
6年生 (665L-1000L)
7年生 (735L-1065L) ←日本の中学1年生
8年生 (805L-1100L)
9年生 (855L-1165L)
10年生 (905L-1195L) ←日本の高校1年生
11・12年生 (940L-1210L)
なお、0L以下の本もたまにあって、BR(Beginning Reader)コードで表されます(幼児向けの本など)。
マイナスと同じ考え方で、BR400よりBR150の方がハイレベルです。
(BR以外のコード表示についてはこちら)
ハリポタはいくつ?
ハリーポッターの第1巻『Harry Potter and the Philosopher’s Stone』を検索すると880Lと出てきます。
※『Harry Potter And The Sorcerer’s Stone』で検索

さきほどの表によると、読者層はネイティブの小学5年~中学3年生くらいということがわかりますね。
Lexileのここがおかしい! 6つの問題点
・・・とここまでは、なかなか便利そうに見えます。
では、いったい何が問題なのでしょうか?
1.レベル感がおかしい
結構致命的なのですが、レベル表示がおかしな本がたくさんあります。
たとえば、AmazonでLexileをもとに同レベルの本を探してみると、次のような本が出てきます。
- The Odyssey (1050L)
- Diary of a Wimpy Kid #4 – Dog Days (1010L)
古代ギリシアの詩人ホメロスが作ったとされる長編叙事詩『オデュッセイア』と、ベストセラーの児童小説『Diary of a Wimpy Kid』シリーズが同じレベル??
『オデュッセイア』の英訳は僕も学生時代に読んだことありますが(原作は古典ギリシャ語)、それなりに難しい作品です。
『Diary of a Wimpy Kid』 を読めた人が、そのまま読めるとは思いません。
ほかにもわかりやすい例を挙げると、
- Holes (660L)
- The Little Prince (710L)
- Charlie and the Chocolate Factory (810L)
Lexile指数では、この3冊の中で、『Holes』が一番簡単で、『Charlie~』が一番難しいことになっていますが、これも違和感があります。
『Charlie~』 は作者ロアルド・ダールの造語がたくさん出てくるので、それを「難しい単語が使われている」と機械的に解釈してハイレベルな評価がつけられたような気もします。
ちなみに、日本でよく使われているもう一つの多読の指標、SSS(英語多読研究会)のYL(読みやすさレベル)では、
- The Little Prince (YL3.4)
- Charlie and the Chocolate Factory (YL4.5)
- Holes (YL6.4)
と、『The Little Prince』が一番簡単で、『Holes』が一番難しくなっています。
日本の読者には、こちらの方がしっくりくるのではないでしょうか。
2.なぜかベストセラーがない
Lexileの公式サイトによると、34万種類以上の書籍が登録されているそうです(2019年7月現在)。
ところがなぜか、ベストセラー作家のSidney Sheldonの作品が1冊も登録されていません。
日本のタドキストの間での定番の洋書『Master of the Game』や『The Sky Is Falling』などが入っていないんですね…。
3.同名の小説でLexileが2つ以上表示される本がある
これが謎です。
たとえば、ヘミングウェイの代表作『A Farewell to Arms(武器よさらば)』で検索すると、1270Lと730Lというまったく違う数字が出てきます。
ページ数は同じなので、この数字の差はいったいどこに…?

こういう本が、ほかにも結構目につきます。
たとえば、ベアトリクス・ポターの名作『The Tale of Peter Rabbit』を検索してみると、上から、250L、320L、610Lという3つの異なるLexile指数が出てきます。

出版社やバージョンが違うからでしょうか?
ページ数は似たようなものなので、中身も同じようですが…。
こうなると、いったいどの数値を信用していいのかわかりません。
4.TOEICとの相関関係がおかしい
TOEICのリーディングスコアから、自分のLexile指数(=読解力)を調べることができます(※下記はAmazonサイトの分類)。
60-95 (410L-620L)
100-145 (480L-745L)
150-195 (610L-835L)
200-245 (690L-915L)
250-295 (775L-995L)
300-345 (855L-1075L)
350-395 (935L-1175L)
400-445 (1040L-1325L)
450-495 (1180L-1450L)
これによると、TOEICリーディングが300点台後半の人は、Lexile指数が1000L前後の本が読めるらしいです。
どういった本があるのか、Amazonのリンクをクリックしてみると、
- 1984 (Signet Classics) - George Orwell
- Origin: A Novel (Robert Langdon) - Dan Brown
- Outliers: The Story of Success - Malcolm Gladwell
正直、TOEICのリーディングで400点をとれない人が読むのはかなりきついと思います。
5.詩や戯曲がLexileの対象になっていない
Lexileは、散文(prose)のみを対象にしています。
なので詩や戯曲を検索しても、「NP(Non-Prose)」と表示されるだけで、難易度がわかりません(詳細な説明はこちら)。
多読で詩や戯曲を読むようになるのはかなり上級者になってからだと思いますが、これはなにげにイタいです。
英語圏の文学は伝統的に、詩や演劇を中心に発展してきた部分があるからです。

たとえば、日本でもファンの多いアーサー・ミラーの『Death of a Salesman』(セールスマンの死)を検索しても、NPと表示されて、Lexile指数はわかりません。

ほかにも、ユージン・オニール(ノーベル文学賞)、テニシー・ウィリアムズ(ピュリッツァー賞)、エドワード・オールビー(ピュリッツァー賞)など、アメリカの学校の授業で取り上げられる劇作家はたくさんいるのに、なぜLexileがここをスルーしているのか不思議です。
6.そもそも間違いが多い
Lexileでは、指数のほかに、ページ数や対象年齢も調べられるのですが、下記では『Holes』がなぜか「3~17歳」と表示されています。

いくらネイティブでも、3歳の幼児に『Holes』は絶対読めません…!
下へスクロールして、ほかのバージョンを見ていくと、「10~13歳」という表示が出てくるので、どうやらそちらが正解のようです。
また、Jeffrey Archer(ベストセラー作家)で検索すると、本人の作品は1冊も出てこず、R. L. Steinのメガヒット作『Goosebumps』が出てくる始末。

おいおい…。
なんでこんなに雑なの?
原因を勝手に推測すると…
原因1 ネイティブは語彙力があるから
語彙力があると、多少難しい作品も読むことができます。
いろんなデータがありますが、2016年のある調査によると、ネイティブスピーカーは5歳の時点で「1万語の語彙を認識できる」そうです(記事)
つまりこの圧倒的な語彙力があるので、多少自分のレベルとはずれていても、あまり気にせず、がんがん読み進められるわけです。
一方、日本人の学習者は英検準1級レベルでも、語彙力は1万語以下です。
知らない語彙に出くわすだけで、読書のハードルがいっきに高くなります。
原因2 サポート体制があるから
アメリカ人の子供がLexile指数を使って読みたい本を選ぶときは、学校の先生や親、図書室の司書さんなどいろんな人がいて、必要ならサポートやアドバイスを受けられます。ひょっとすると、まわりに同じ本を読んだことのある友達もいるかもしれません。
だからLexileの情報の精度に多少の問題があっても、それに振り回されにくいといえます。
原因3 ページ数があまり考慮されていない
Amazonのサイトによると、Lexile指数は「単語数、難易度、構文の複雑さ」に基づいて客観的に算出されたそうですが、その算出方法がブラックボックスです。
どうも、本の長さ(ページ数)があまり重要視されていないのではないかと思います。
だから、「Peter Rabbit」のような古風な英語で書かれた30ページ程度の絵本が、高いレベルとして評価されてしまうことがあるのかもしれません。
一方、日本のとくに多読初心者の場合、長い本だと挫折する可能性が高いので、ページ数は結構重要な要素です。
Lexile指数って、いいところはないの?
批判的なことを書いてきたので、良い点も見ておきたいと思います。
1.登録件数が多い
重要な作品がいくつか抜けているものの、前出のYL(読みやすさレベル)よりも、はるかに情報量が多いです。
たとえば、英語圏で人気の児童コメディ小説『I FUNNY』シリーズは、YLではいっさい情報が出てきませんが、Lexileにはちゃんとありました!

2.検索フィルタ機能が強力!
本を探したいときに、Lexile指数はもちろん、年齢、ジャンル、ページ数、受賞の有無などでフィルタリングして、詳細な検索ができます。
検索結果ページの右側のコラムで、好きな項目を選択すればOKです。

ここまで詳細な書籍検索ができるサイトはなかなかないので、使いようによっては便利ですね。
まとめ
Lexile指数は、YLで調べられない洋書についても調べられるのがいいところですが、良くも悪くもネイティブ向けの指標です。
一方、YLは実際に日本のタドキストたちが実際に読んで評価したものなので、情報量は少なくても、信頼性が高いです(読んだ人の主観なのでバラツキはありますが)。
多読の初心者なら、少なくとも最初の数百万語は、YLだけでも十分に事足りるでしょう。
YLで検索してみて、情報が出てこなかったら、あくまで参考程度にLexileをチェックするのがよいのではないでしょうか。
Happy reading!