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今回は、英語の通訳(ガイド)、翻訳、教師を目指す人がぜひ学んでおきたい『英語以外』の必須教養科目を紹介します。
「英語の専門職には興味ないけど、プロ級の英語の使い手になりたい」という人にも参考になるかと思います。
あくまで翻訳歴10年ちょいの青二才の経験をもとにした勝手なセレクトです。
分野によって異なる意見もあるかもしれませんが、ご笑覧いただければ幸いです。
なぜ「教養」が必要なのか?
通訳、翻訳、教師などを目指す場合、英語の勉強を頑張るのは当たり前ですが、一般教養を学ぶことについては、おろそかになりがちです。
すると、翻訳などの仕事をしていてもいろいろ支障が出てきます。
古典小説がニュースや映画に
たとえば、こちらの英大手紙ガーディアンの記事をご覧ください(2020年4月10日付)。
A tale of two New Yorks: pandemic lays bare a city’s shocking inequities
この記事タイトルを見て、ピンときた方はいますでしょうか?
英語ネイティブなら、すぐに19世紀の英文豪チャールズ・ディケンズの長編小説『A Tale of Two Cities(二都物語)』からとったんだな、とわかると思います。
『A Tale of Two Cities』はフランス革命下のパリとロンドンを舞台にした壮大なロマンチック歴史小説ですが、この記事ではコロナウイルスのパンデミック下における現代ニューヨークが「二つの社会」に分断されているという論旨なのかな、とタイトルを見て推測できるわけです。
こういうのは知らないと、そのままスルーしてしまいますよね。
知らなくても普通に訳せてしまう場合もありますが、中にはうまく訳せなかったり、最悪の場合、誤訳につながるケースもあったりします。
ちなみに、この『A Tale of Two Cities』は、2012年公開の映画『The Dark Knight Rises(ダークナイト ライジング)』の構想のもとにもなったそうです。
クリストファー・ノーラン監督は、米メディアの取材で次のように明かしています。
ノーラン監督は、「『二都物語』は僕にとって、フランス革命という時代に、れっきとした文明が小さな紙切れのように折りたたまれていってしまう様を痛切に描写したものだ。物事がどんどん悪い方向に進んでいく様子は、想像をはるかに超える」とコメントしており、どうやらそこに『ダークナイト ライジング』で描かれるゴッサム・シティの悲劇を重ね合わせたようだ。
このように、古典小説は単に小説の世界にとどまらず、ニュースや映画、舞台、音楽などさまざまな方面に影響を与えたりしているわけです。
「英語力+教養」が大切!
上記の例以外にも、洋書、雑誌、広告などに、シェイクスピアや聖書の有名な言葉が引用されたり、歴史的な事件がたとえに出されたりすることはわりとよくあります。
たとえば、こちらの写真は、アメリカの大きな政治問題の一つである妊娠中絶をめぐる支持派のプロテストです。「ROE」という文字を見ただけで、アメリカ人なら中高の歴史の授業で教わるので、すぐに米連邦最高裁が女性の人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決(Roe v. Wade)」のことだとわかると思います。
また、英語のニュースでは中東情勢がわりとよく報じられますが、イスラエルとパレスチナがなぜいざこざを続けているのか、そこに大国イランやエジプトはどう関係してくるのか、など宗教や歴史、民族、地政学的な基礎知識がなければよく理解できないですよね。
教養が役立つ場面
- TIMEやThe Economistを読むとき
- CNNやBBCを見るとき
- ポッドキャストを聞くとき
- 映画や海外ドラマを見るとき
- 小説やノンフィクションを読むとき
…などに必要なのは、「英語力+教養」です。
教養があると、ストーリーの読解力や理解力が増しますし、一歩深読みできるようにもなります。
英語教師になるなら、生徒に話の背景などを正しく伝えることができますし、通訳・翻訳者になるなら誤訳が減ります!
最初に身につけたい「10の教養」
では、いったいどんな教養を学べばよいのでしょうか?
「教養」と一口にいっても漠然としていて範囲が広いですよね。
あくまで英語関連のプロを目指す場合に限って言うと、僕が考える、とくに重要な分野は次の10ジャンルです。
- 映画
- 文学
- 宗教
- 経済・金融
- アメリカ政治・社会
- アメリカ史
- 国際情勢
- 絵画
- 音楽
- 日本文化と日本人
ではそれぞれの分野について、下でおすすめの入門書などと合わせて紹介します。
多少アメリカ寄りなセレクションですが、日本ではアメリカ英語の素材で英語を学んでいる人が圧倒的に多いので、アメリカの文化・社会知識をもっておくと役立つと思います。
※僕が昔読んだ入門書はすでに内容が古かったり、絶版になっているものもあるので、今回、改めて大学1年生に戻った気分で、実際に評価の高い本を読み比べて選んでみました。
教養1 映画
なぜ映画が教養・・・? と思うかもしれませんが、英語圏では、ずばり映画こそが文化であり、教養です。実際、有名な小説や事件、アニメはだいたい映画化されています。ハリウッドを生んだ国アメリカでは、みんな普通に週1回くらいは映画を見てるので、有名な映画を知らないと話題についていけないことも。少なくとも月に1本くらいは映画を見るようにしたいですね。
・Time Out「The 100 Best Movies of All Time」
→ こちらは英「Time Out」が発表した「映画史に残る名作100選」です。ランキングの偏りやモレなど突っ込みポイントはあるかもしれませんが、ここで紹介されている作品はどれも王道かつ有名なものばかりなので、まだ見てない作品があれば上から順にどんどん見ていきましょう。NetflixやAmazon Primeに入っていると、こうした名作映画のほとんどを定額でいっきに見ることができます。
映画評論家・町山智弘さんの『<映画の見方>がわかる本』も合わせて読めば、いくつかの作品をより深く読み解くことができるようになります。
教養2 文学
冒頭で紹介した通り、英語圏の著名な文学作品は一流メディアのニュースでさりげなく引用されることがあるので、有名な作家や作品の基礎知識はもっておきたいです。とくにシェイクスピアの代表的な戯曲は、主要なプロットと有名なセリフも覚えておきたいくらい。
・Penguin Books「100 must-read classic books」
→ 文学作品もまずは読まないと始まりません。英ペンギンブックスの「古典文学必読作品100作」を1位の作品からどんどん読んでいきましょう。
…と言いたいところですが、古典100冊読むのはかなりの体力が必要なので、おすすめは「Oxford Booksworms Library」や「Penguin Readers」など、通称「Graded Readers(GR)」と呼ばれる英語学習者向けに語彙や文法を制限したテキストを使うことです。GRなら原作のストーリーや雰囲気を楽しみつつ、英語の勉強にもなり、短期間で多くの古典小説を読破することができます。
またジェーン・オースティンからカート・ヴォネガットまで、有名な古典小説の多くは映画化されています。読むのに10時間以上かかるような長編小説も、映画であれば1本2時間程度で見終わるので、こうしたものを活用するのも手です。(※ストーリーが原作とかなり違う映画作品もあるのであくまで参考程度に)。
もっと深く知りたい人は、ロンドン大学ジョン・サザーランド英文学教授がヨーロッパやアメリカを中心とする文学史についてユーモアたっぷりに面白く解説した『若い読者のための文学史』がおすすめです。
教養3 宗教
日本では宗教に馴染みがない人が多いかもしれませんが、欧米社会では小説や絵画、歌劇などさまざまな分野に影響を与えているので、宗教の基礎知識は必須。とくに旧約・新約聖書の言葉は引用されることが多いので、頭に入れておきたいです。イスラム教、ユダヤ教の基礎知識もキリスト教と関連付けながら学ぶのがおすすめ。
・イラスト図解 社会人として必要な世界の宗教のことが3時間でざっと学べる
→ ニュース解説者でおなじみの池上彰さんが、世界のおもな6つの宗教(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、神道)の最重要ポイントをわかりやすく解説。初心者向けの内容ですが、スンニ派とシーア派の違い、イスラム原理主義とは何か、ローマ法王とはどんな存在か、ユダヤ人とはどんな人か、など、宗教知識に関連づけて世界のニュースの背景も学べます。
イスラム教については、池上さんの『高校生からわかるイスラム世界』も良書です。興味のある方はぜひ。
教養4 経済・金融
リーマンショックからビットコインまで、ビジネスニュースを理解する上で経済・金融の基礎知識も不可欠です。基礎知識を仕入れたら、あとは日経新聞を毎日読んで、経済・ビジネスニュース番組をフォローすれば、いつしかあなたも経済通になれるはず(?)。
・池上彰の「経済学」講義(1・2)
→ 池上彰さんが2014年に愛知学院大学でおこなった講義を書籍化。円安、ブレトンウッズ体制、ニクソンショック、リーマンショックなど、基礎的な知識から丁寧に説明されており、この2冊(歴史編・ニュース編)を読めば、経済・金融の基本が一通り身につくようになっています。両巻を合わせて800ページを超えますが、講義スタイルなのでわかりやすくてどんどん読み進められますよ。
教養5 アメリカ政治・社会
アメリカの政治・司法制度は日本のものとはぜんぜん違うので、基本的な制度の成り立ちを理解しておかないとニュースをぜんぜん理解できないと思います。(イギリスは議院内閣制で日本と近いのでとりあえず後回しで…)
・新版 アメリカのことがマンガで3時間でわかる本
→ アメリカで長年ビジネスに携わってきた著者が、アメリカの風土や人から、政治、経済、ビジネス、教育、文化まで、アメリカの多様な側面を斬新でユニークな視点から紹介。「マンガ」とありますが、見開きごとに1トピック(文章+漫画)になっていて、説明も充実しています。アメリカ入門の最良の一冊ではないでしょうか。
教養6 アメリカ史
政治・経済と並んで、歴史も必須の教養。ニュースでも歴史上の人物や大事件などが引き合いに出されることはしばしばあるので、アメリカ史の基礎知識は欠かせません。退屈な暗記学習にならないよう、文化やトレンドなどと結ぶつけて体系的に学習するのがお勧めです。
・アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書
→ アメリカの小学生が使う歴史教科書を元にしたテキスト。建国から現代にいたるまでの激動の歴史が、登場人物の「息遣い」まで感じられるストーリー仕立てになっていて、楽しく読み進められます。見開き2ページに英語と日本語の対訳が載っているので、英語の勉強になる点もうれしいですね。
教養7 国際情勢
国連やテロ、資源争い、気候変動、NGOなど、国際情勢の理解も必須です。ここでも池上先生のわかりやすい入門書でささっと基礎知識を仕入れておきましょう。
・池上彰の世界の見方: 15歳に語る現代世界の最前線
→ 池上彰さんが千代田区立九段中等教育学校でおこなった6回分の授業を書籍化したものです。従来の世界史や地理などの範囲にとらわれず、6つのユニークなテーマ(地図、お金、宗教、資源、文化、情報)を切り口に現代世界の重要問題を解説しています。この本を読み終えたら、同著者の『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズを順に読んでいくのがおすすめです。
教養8 絵画
文学や宗教ほどではないですが、西洋アートの基本的な知識もあるといろんなところで役立ちます。海外に行ったときに地元の美術館めぐりの楽しみも増しますね(笑)。歴史とアーティストの作品を関連づけて理解するのがお勧めです。
・はじめての絵画の歴史
→ 現代美術の第一人者のホックニーと、美術批評家のゲイフォードの二人が、洞窟絵画からモナリザ、浮世絵、写真、コンピューターグラフィックスまで、古今東西のアートについて語り合った本。ベストセラーになった『絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで』のダイジェスト版です。同書のエッセンスを3分の1くらいの長さで、より親しみやすくわかりやすい言葉で紹介しています。
教養9 音楽
音楽は映画と並ぶエンターテイメント。英語雑誌や海外ドラマでも音楽の話題はよく出てきます。日本でも人気のアーティストだけでなく、ブルースやジャズ、カントリーなどいろんなジャンルについて幅広く触れておきたいです。
・はじめてのアメリカ音楽史
→ アメリカの黒人音楽の歴史に詳しいジェームズ・バーダマンさんと、ポップカルチャーの評論家・里中哲彦さんが、ブルーズ、ジャズ、ソウル、カントリー、ロックンロール、ヒップホップなど、200年以上の歴史を誇るアメリカ音楽について徹底的に語り尽くした対談本。日本ではあまり一般に知られていないアーティストも取り上げられていますが、巻末に詳細な年表が付いているほか、各章におすすめのアルバム紹介コーナーもあり、この一冊でアメリカン音楽の全体像がわかるようになっています。
教養10 日本文化と日本人
最後に紹介したいのは、日本の伝統や文化などの教養。日本人として英語を使っていく以上、日本のことについて意見を求められることはよくあるので、きちんと知っておきたいですね。もちろん、通訳ガイドとして外国人観光客を日本に案内するときにも役立ちますよ!
・英語で日本紹介ハンドブック
→ 通訳ガイドを目指す人のバイブル的本。日本の政治、歴史、宗教、教育、食、娯楽、社会保障など、非常に幅広いテーマが網羅されているので、一冊読み通せば日本人としての必須の教養が身につきます。日英両言語で書かれているので、日本のことを英語でどう説明すればよいかもわかるもうれしいですね。
さいごに:英語のプロに必要なスキル
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
僕の経験上、英語のプロ(通訳・翻訳・教師)を目指す上で大切なのは「T型」のスキルではないかと思っています。
たとえば、翻訳者を目指すなら、ビジネスなのか、サイエンスなのか、法律なのか、エンターテイメントなのか、何かしら自分の専門分野をもっていた方がいいです。
でも逆に「専門バカ」になりすぎると、この仕事はなかなか務まりません。
(そういう人はむしろ研究者を目指すとよいと思います)
専門性をもつ一方で、幅広いテーマや新しい話題に柔軟に対応できる教養や素養をもっておくことが重要です。
僕は大学時代に英文科だったのですが、わりと節操がない性格なので(笑)、他学部や他大学の授業にもぐりこんだり、興味の赴くままにいろんなジャンルの本を読んだりしていました。
今振り返ると、それが今の仕事にすごく役立っています。
できれば、学生時代など若いうちに文学や歴史など、ここで取り上げた「教養」にどっぷり漬かっておくのがおすすめです。
社会人になると仕事やプライベートでいろいろ忙しくなるので、『白鯨(Moby-Dick)』や『カラマーゾフの兄弟』みたいな1000ページくらいある長編小説を読む余裕なんてなかなかないですよね。
生きる意味や将来のことについてじっくり考えたり、友人たちと青臭く語り合ったりできるのも学生時代ならではの特権かもしれません。
教養は一生役立つものなので、なるべく早く触れておいて、機会があれば何度も「再訪」するのが個人的にはお勧めです。
ぜひ骨太の教養を身につけて、一流の英語プロを目指していただければと思います!
Good luck, and stay safe!