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本気で英語を身につけたい人に、僕はフランス語の勉強をおすすめしています。
英語の勉強だけでも大変なのに、なぜフランス語も……と思う人も多いと思います。
僕は昔、フランス語を少しかじったおかげで、わりとスムーズに上級レベルの英語力を身につけることができました(後述)。
残念ながら、ネットで検索しても、同じことを書いている人はほとんどいないようです(←見つかなかった)。
こんなに素晴らしい学習法を知らないのはもったいないので、この記事では、英語学習者があえてフランス語を学ぶメリットと理由についてお話します。
machaのフランス語学習歴
偉そうに書いてますが、フランス語は超ド素人です。
- 大学4年頃、独学で学び始める(大学院入試に必要だったため)
- 1年後くらいに仏検3級に合格(大学院もどうにか合格…)
- 数年のブランク…
- 社会人になってから再び学習開始。アテネフランセ(東京の老舗フランス語語学学校)に1年くらい週1で通って、日常会話の練習
- ふたたびブランク…(今にいたる)
という感じです。
もっと続けたかったのですが、仕事やプライベートが忙しくなり、やめてしまいました。最後にフランス語を学んだのはもう何年も前のことです。
でも、そんな僕でも、いまだに「フランス語をやってよかった…」と実感しています。
なぜでしょうか?
フランス語を全力でおすすめする理由
最初にこれをご覧ください。
フランスの有力紙「Le Monde」のウェブサイトに載っている国際ニュース記事です。
中米ニカラグアのオルテガ大統領が「政治犯を解放する」方針を発表した、というニュースです。
タイトルに注目してください。
【原題(フランス語)】
Nicaragua : le président Ortega propose de libérer des prisonniers politiques
【英語訳】
Nicaragua: President Ortega proposes to liberate (release) political prisoners
驚くほど、そっくりですよね。
あまりにも英語に似ているので、仏検3級どまりのmacha(筆者)でも読めてしまうくらいです(笑)。
なぜ英語とフランス語は似ているのか?
話が専門的になりすぎないよう、ざっくり説明します。
- 英語 → ゲルマン系の言語(ドイツ語・オランダ語・スウェーデン語などと同じ)
- フランス語 → ラテン系の言語(イタリア語、スペイン語、ポルトガル語など)
英語とフランス語は、もともとまったく別の言語です。
ところが、イギリスが11世紀にフランスに支配(いわゆるノルマン・コンクエスト)されてしまったために、たくさんフランス語が入ってきました。以後、数百年間、貴族階級の間では、フランス語が公用語だったくらいです。
※ 当時の歴史・言語状況については、東京外国語大学のサイトが参考になります。
その結果、現在の英語はフランス語とかなり似た言語になりました。
とくに単語レベルでは「兄弟(姉妹)言語」といってもいいくらいです。
古い調査ですが、現在最もよく使われている英単語1万語のうち、29%がフランス語からきているというデータもあります。
フランス語をやると英語の「語彙力」が倍増する!
フランス語と英語が、とくに単語レベルで似ていることはわかりました。
でもフランス語を知っていても、英語の勉強はかならず必要になります。
だったら、フランス語なんてやらずに、最初から英語だけやればいいじゃん…、って思いますよね。
いやいや、違うんです。
一番のポイントは「語彙」です。
フランス語を少し学ぶと、英語のボキャビルがすごくラクになります。
とくに英語の上級者になればなるほど、その効果を実感するようになります。
その理由を説明します。
英語の「教養語」はもともとフランス語だった
この超ざっくりなグラフをご覧ください。
中世のイギリスの貴族社会にフランス語が大量に入ってきたという話をしました。
つまりフランス語は、基本的に知的で上品で洗練された「教養単語」(※)として、英語の中に取り込まれました。
その結果、大雑把ですが、英語の中でこんな感じの住み分けがされたわけです。
- 簡単な言葉=昔からの(ゲルマン系の)英語
- 難しい言葉=新しく入ってきたフランス語
この影響は今でも強く残っています。
英語では、難しい単語になればなるほど、フランス語由来の言葉が多くなります。
とくに1万語超(英検1級レベル)の語彙は、フランス語のオンパレードです。
初級単語と上級単語のどっちを覚えるのが簡単?
ここがミソなのですが、英語に取り入れられたフランス語自体は、必ずしもフランス語の中でもともと難しい単語というわけではありませんでした。
つまり、わかりやすくいうと、こんな図式が成り立ちます。
フランス語の初級単語が、英語の1万語超の上級単語と同じだったりするわけです。
では、ここで一つ考えてみましょう。
次のAとBでは、どっちが簡単だと思いますか?
B.フランス語の初級単語(仏検3~5級レベル)を2000語を覚える
答えは、言うまでもなくBですよね。
英検1級の勉強をしたことがある人はわかると思いますが、上級レベルの単語を暗記するのは死ぬほど大変です。
普通にテキストとかで勉強していたら、数年に一度しか出合わないような単語がゴロゴロあります。
一方、フランス語の初級単語(1000~2000語くらい)なら、とくにボキャビルをしなくても、入門テキストを使って文法中心の学習をしているだけで自然に覚えられます。
初級レベルの単語は、毎日のように出合うからです。
そしてフランス語の初級単語は、意味や姿を少し変えて、英語の上級レベルでもたくさん出てきます。
フランス語をやると英語の上級単語がすぐ覚えられる例
わかりやすい例として、「血」という言葉で説明します。
英語 blood
英語の「blood」は中学校で習うような初級単語ですよね。
フランス語の「sang」も同じく超入門単語です。
これを知っていると、英語学習でどう役に立つのか。
次の2つは、1万語超(英検1級)レベルの英単語です。
わかりますでしょうか?
sanguine 陽気な、楽観的な
sanguinary 血生臭い、残忍な
意味は対極的ですが、どちらも「血」に関係した単語です。
血色がよく、快活な、という意味の英単語がsanguineで、
血がマイナスイメージになったのがsanguinary
です。
このレベルの英単語を正面作戦で暗記していくのはかなり大変ですよね。
職業柄、わりと英語をたくさん読んでいるはずのmachaでも、そんなに目にする単語ではありません…。
でもフランス語をやった人なら、「sang(血)」が語源だとすぐにわかるので、わりと簡単に覚えられます。
たとえ意味を正確に思い出せなくても、「血」というイメージをもてれば、文脈から意味を類推したり、意味を思い出したりすることも可能です。
これはかなり大きな違いです。
このように、フランス語がわかると「語源」から英単語を簡単に覚えられるようになります。
フランス語学習に対する3つの誤解
いやいや、それでもフランス語なんて…、という方もいると思います。
ここでは、勝手に3つの疑問にお答えします。
【疑問1】今からフランス語を始める時間や心の余裕がないんだけど…
フランス語にかぎらず、外国語を習得するのは容易ではありません。
たしかにフランス語をペラペラに話せるようになろうと思ったら、かなりの時間と努力が必要です。
でも今お話しているのは、あくまで英語学習を効率化するための「ツール」としてのフランス語の素養です。
仏検でいえば、3~4級程度の基礎レベルで十分です。
フランス語の基礎は200時間超で習得可能
仏検は公式サイトで各級取得に必要な時間の目安を発表しています。
- 1級 600時間以上
- 準1級 500時間以上
- 2級 400時間以上
- 準2級 300時間以上
- 3級 200時間以上
- 4級 100時間以上
- 5級 50時間以上
これによると、仏検3級レベルに到達するのに必要な学習時間は、わずか200時間超だそうです。
フランス語の文構成についての基本的な学習を一通り終了し、簡単な日常表現を理解し、読み、聞き、話し、書くことができる。
仏検1級でも600時間超なので、英語に比べて、かなり短い学習時間で習得できることがわかります。
英語を一度学習した人なら、ヨーロッパ言語の基本的な仕組み(時制や品詞、動詞の活用、文字表記など)をすでに理解しているから、のみこみが早いんですね。
英語習得に必要な学習時間は1万時間以上
では、英語の中級者が上級者になろうと思ったら、いったいどれくらいの学習量が必要でしょうか。
正確なデータはありませんが、こちらの記事ではこんな例が上がっています(日本語母語話者の場合)。
・CEFRのC1(英検1級、TOEIC900点に相当)に必要な学習時間 →4000~5000時間
つまり、中級者がTOEIC900点レベルの上級者になろうと思ったら、追加で2000時間くらいの学習が必要ということです。
さらに英語のニュースや海外ドラマを理解できるレベルを目指すなら、筆者の経験上、トータルで少なくとも1万時間以上は英語に触れなくてはいけないと思います。
「英語を1万時間学ぶ」という前提に立ってみると、200時間なんてちょろいと思いませんか?
割合にしてたった2%、ちょっとした「寄り道」みたいなものです。
しかも、この「フランス語を200時間学んだ」経験は、英語をやっていく以上、一生効果を発揮します。
英語の語彙レベルが2万語になろうが、3万語になろうが、フランス語系の単語には出合うからです。
フランス語の知識があると、英語習得のスピードが加速します。
だから、なるべく早く始めた方が「よりお得」と言えるんですね。
【疑問2】フランス語って難しそう…
フランス語は英語にも日本語にもない発音があったり、動詞の活用が多かったりするので、「難しい言語」というイメージがあるかもしれません。
でも実際は、かなり学びやすい言語だと思います。
文法
文法構造自体は素晴らしいくらい体系化されています。
動詞の活用は確かに多いですが、英語のように「不規則活用」などの例外はほとんどないので、わかりやすいです。
最初にルールを覚えたら、あとはそれを当てはめるだけです。
発音
発音規則がしっかりしていて、英語のようにつづりと発音が一致しない単語は基本的にありません。
ルールさえ覚えれば、どう発音すればよいのかわかるので便利です。
英語や日本語にない発音は、何度も聴いて耳を慣らしましょう。
教材環境
フランス好きの日本人が多いためか、手ごろな学習教材が豊富です。
英語のように教材が多すぎて何を買えばよいかわからない、なんてことはありません(笑)。
英語で学んだ知識も活用できるので、総合的に考えると、ものすごく学習しやすい外国語ですね。
【疑問3】スペイン語やポルトガル語でもいい?
フランス語と同じラテン系言語のスペイン語やポルトガル語でも同じでは?と思う人もいるかと思います。
僕は3つともやったことありますが(←言語学が専門だった)、この中では、フランス語が英語の学習に一番効果的です。
スペイン語やポルトガル語の知識も英語に役立たないわけではありません。想像力を働かせれば、文法や語彙レベルで共通点がたくさんあることに気づくと思います。
ただし、「支配者の言語」として直接取り入れられたフランス語と比べると、英語との関係性はそこまで強くありません。
一つだけ外国語を選ぶとしたら、フランス語をお勧めします。
フランス語をやってわかった「3つのメリット」
フランス語を学ぶと、英語習得がはかどるという話をしました。
でもメリットはそれだけではありません。
ここでは、ほかにおすすめポイントを3つ紹介します。
1.「外来語」としてのフランス語がわかるようになる
英語の小説や雑誌(TIMEやThe Economistなど)を読んでいると、たとえば、こんな言葉を見かけたりします。
- déjà vu(既視感)
- faux pas(過失)
- vis-à-vis(~に関連して)
これは全部、フランス語です。
「英語化されたフランス語」ではなく、あくまで「外来語」という位置づけなので、イタリック体で書かれることが多いです。
日本でも目新しい外来語(カタカナ語)を好んで使う人がたまにいますが、それと同じで、英語圏でもエリートが気取ってフランス語を使いたがります(笑)。
フランス語をやると、こういう言葉もわかるようになるので、難易度の高い英語の文章を読んでいてつまずくことが少なくなります。
ほかによく使われるフランス語の「外来語」を知りたい人は、下記の記事がよくまとまっていますのでご覧ください。
2.「英米」一辺倒ではない視野が身につく
英語をやっている人は(僕も含めて)、どうしても英語圏の常識=世界の常識だと思い込んでしまいがちです。
英語圏以外の外国の文化や考え方を知っていると、世界のいろいろなことに対して、もっと広い視野で、客観的に考えられるようになります。
とくにフランス語圏は英語圏とはかなり違う文化や歴史をもっています。
初歩レベルでも、テキストや映像を通じてフランス式の文化や伝統などに触れることができ、新しい世界を知るきっかけになります。
3.英語ネイティブにナメられなくなる
英語のネイティブスピーカーは正直、外国語が苦手な人が多いです(移民の家庭をのぞく)。
英語ができたら世界のどこへ行っても困らないので、「外国語を学ぼう」というモチベーションがわきにくいんですね。
なのでフランス語が少しばかりできると、ハッタリをかますことができます(笑)。
ただの「英語の下手くそな日本人」
→「こいつ、英語だけじゃなくてフランス語も話せるのか…(すごい)」
に変わるんです。
簡単なあいさつや自己紹介程度の言葉でも、フランス語で一言二言いえると、彼らの目つきがガラっと変わります。
僕も何度もそういう経験をしました。
コミュニケーション戦略として、ひとつの「武器」になりますね。
フランス語はとくにこんな人におすすめ
英語の中・上級者におすすめします。
英検でいえば準1級~1級くらいです。
準1級レベルの人が1級レベルに到達しようと思ったら、3000~5000語くらいの語彙を新たに覚えなくてはいけません。
普通に単語帳で覚えていくのは、かなりつらい作業です。
そこでフランス語の基礎を学んでおくと、英語のボキャビルがかなり楽になります。
英検2級までは、別にフランス語をやらなくても、きちんと学習すれば合格できます。やっても害はありませんが、ただの遠回りになってしまいます。
英検3~5級の人は、まだ英語の基礎ができていないので、先に英語の文法や発音をしっかり学びましょう。
おすすめのフランス語の学び方(初心者)
最後に、おすすめの学習法を紹介します。
1.入門書で全体像を把握する
書店へ行って、初心者向けのテキストを1冊買いましょう。
僕がフランス語をやったのはずいぶん昔なので同じテキストではないですが、こんな感じの入門書がよいと思います。
これをCDを毎日聴きつつ、1~2カ月くらいでささっと終わらせるのがおすすめです。
すべての単語を完璧に暗記したり、聞き取れるまでしつこくリスニングしたりする必要はありません。
重要な文法事項をざっくり理解できたら、次の章にどんどん進んでください。
フランス語の全体像を把握することが先決です。
なぜ1~2カ月の「短期決戦」がよいかというと、文法や語彙などの知識は覚えたそばから、すぐに忘れていくものだからです。
忘れる前に基礎学習を終わらせてしまおうという作戦です(笑)。
2.ほかの入門書を2~3冊やる
入門書1冊だけだと、インプットの「量」が足りません。
いろんな文章パターンや語彙に触れた方がいいので、同じような入門テキストをあと2~3冊くらいやるのがおすすめです。
文法事項の説明などはかぶってくると思うので、流し読みでかまいません。
メインのダイアローグや例文などを音読して、フランス語の表現やリズムに慣れましょう。
3.NHKラジオ講座を毎日聴く
クオリティが高くて値段も手ごろなNHKのラジオ講座は、外国語学習の鉄板教材です。
入門テキストを1冊終わったあとくらいに始めると、よい復習になります。
通常1シーズンが6カ月なので、1年間聞き続けるとフランス語の基礎を2回おさらいできて、仏検3級に合格するくらいの力がつきますよ。
【まとめ】外国語「二刀流」のすすめ
英語にとってのフランス語は、音楽をやる人にとってのピアノのようなものかもしれない。必ずしもやる必要はないけど、やった方が得るものが大きいし、結局ゴールへの近道だったりする。— macha@パパ翻訳家 (@natively_fun) 2018年9月30日
https://twitter.com/natively_fun/status/1046205502072528897
思った以上に長い記事になってしまいました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
まとめると、こんな感じです。
- フランス語をやると英語のボキャビル(とくに上級単語)がラクになる
- 英語はフランス語学習と並行してやった方が効率が高い
- フランス語の基礎習得には必要な学習は200時間くらい
- フランス語をやるとほかにもお得なことがたくさんある
最初に書いた通り、macha(筆者)がフランス語を始めたのは大学4年生の頃です(←大学での第2外国語はスペイン語だった)。
大学院入試に必要でなければ、たぶんやることはなかったと思います。
今振り返ると、すごくよいタイミングでフランス語を出合うことができました。
僕の場合、英検1級と仏検3級をとったのがほとんど同じ時期でした(2カ月違い)。
英検1級の単語帳をめくりながら、「あれ、これフランス語の○○○と同じじゃない?」みたいなことがたくさんあったのです。
その効果もあって、暗記の苦手な僕でも、英検1級の語彙関係の設問は9割近く正解し、一発合格できました。
英語力をつけるためにフランス語をやるというのは、なかなか不純な動機ですが(笑)、実際に学んでみると、いろいろな発見があってきっと楽しいと思います。
英語の中級者から上級者への道のりは、しばしば孤独で、長くて、険しいです。
「何年も英語を勉強しているのにちっとも上達が感じられない…」という人もいるかもしれません。
フランス語をやるとよいのは、マンネリ化しがちな英語だけの勉強に、いい意味で「変化」を作れる点です。
習い始めたばかりの外国語は、日々の上達が比較的簡単に感じられます。
そうやってフランス語の勉強で成長や手ごたえを感じつつ、一方で時間をかけてしっかり英語力の土台を養っていくことができます。
フランス語をやってみた結果、「英語よりフランス語の方をやりたい!」という方も出てくるでしょうし、「やっぱりフランス語は難しかった…」とあきらめる方もいるかもしれません。
いずれにせよ、英語とはまったく別の言語を学んだ経験というのは、いろいろなところで生きてくると思います。
ぜひこの記事を読んで、フランス語を始める人が一人でも増えてくれたらうれしいです。
Bonne chance!
(Good luck!)