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先日、僕がどうやって英単語帳を使わずに2万語レベルの語彙を習得したかについて記事を書きました。
【努力ゼロ】凡人の僕が英単語帳を使わずに1万語を暗記した方法
今回は逆に、単語帳のデメリットについて少し考えてみます。
ただやみくもに単語帳を丸暗記するのは、実は結構リスキーです。
英語力が上がるどころか、下がってしまう可能性すらあります。
この記事を読むと、単語帳との上手な付き合い方や効果的な活用法などがわかります。
ボキャビルに興味のある方や単語学習で伸び悩んでいる方は、ぜひご参考に!
英単語帳を使うデメリット(欠点)
一口に「単語帳」といってもいろいろなタイプがあるので、ここでは、見出し語、意味(日本語)、例文の基本3点セット(+発音記号や類語・派生語など)からなる一般的なものを想定しています。
「日本語脳」になりやすい
本来、英語は英語のまま、あるいは「イメージ」のかたまりとしてインプットしたいところですが、単語帳を使うと、「英語=日本語」としてインプットされてしまいます。すると、自分がアウトプットするときに、日本語の発想につられて、つい不自然な英語が出てきやすくなります。
これをなくすには、インプットした「英語=日本語」のつながりを切断する必要があるのですが、一度頑張って暗記したものをあえて忘れるのはなかなか簡単ではありません。
言葉の正確なニュアンスが身につきにくい
単語帳をやれば単語を覚えた気になりますが、残念ながら言葉のニュアンスまではわかるようになりません。単語帳に載っている例文は一般に短すぎて、言葉の正確なニュアンスを理解するのには不十分です。正しいニュアンスを体得するには、実践の中での用例にたくさん触れる必要があります。
以下は、20歳を過ぎてから日本語を学び、外国語の母語話者として初めて芥川賞をとったバイリンガル作家、楊逸さんが講演で語った言葉です(サイト)。
※太字は筆者
私はこれまでずっと辞書を使って暮らしてきたのですが、辞書に載っている意味というのはあくまでも正しい意味で、本当に参考程度ですね。辞書に載っている言葉の意味というのは、就職するときに履歴書に貼る写真と同じです。履歴書の写真の表情は決まってしまっているけれど、実生活でずっとそういう表情かというと、そうではないですよね。喜怒哀楽があるし、微笑みという1つの言葉であらわす表情でも、いろいろな微笑みがあります。
文中の「辞書」→「単語帳」に置き換えても同じことが言えると思います。「履歴書の顔」を認識できても、その人を素顔を知っていることにはならないんですね。
難易度順や頻出順はアテにならない
「レベル別」や「頻度順」をうたう単語帳はたくさんありますが、あまり信用しないようにしましょう。
たとえば、大手出版社アルクの単語リスト「SVL12000」で、動物や虫の名前をいくつか拾ってみます。
2000語レベル:mosquito(蚊)
3000語レベル:eagle(タカ)
4000語レベル:owl(オウム)
5000語レベル:sparrow(スズメ)
6000語レベル:octopus(タコ)
7000語レベル:snail(カタツムリ)
8000語レベル:moth(ガ)
9000語レベル:ostrich(ダチョウ)
10000語レベル:penguin(ペンギン)
11000語レベル:mule(ロバ)
12000語レベル:toad(ヒキガエル)
ご覧のとおり、ネイティブの5歳児なら全部わかる簡単な単語なのですが、SVLをベースにした単語帳(キクタンなど)では中級や上級として取り扱われている単語も少なくなりません。
→ 騙されるな!SVL12000(究極の英単語)をおすすめしない全理由
このように市販の単語帳では(コーパスを使って編纂されているはずの単語帳でも)、ネイティブの幼児が知っている基礎単語とネイティブの中高生が覚えるような時事用語などが同レベルに混在していることが多々あります。
その結果、本来は平易な言葉なのに「高尚な単語」という誤ったニュアンスで覚えてしまったり、実際の会話でもカジュアルな場面なのに難解な語彙を使ってしまうリスクなどがあります(筆者はそういう場面を何度も見てきました)。
固有名詞も身につかない
あまり注目されていませんが、実際のコミュニケーション(日常会話)において、固有名詞は非常に重要です。固有名詞の知識なくして洋書や映画を理解するのは不可能と言えるくらいなのですが、一般の単語帳には残念ながら固有名詞はまず載っていません。(同じことは熟語、句動詞、スラングについても言えます)
英単語力が1万語を超えると、徐々に一般語彙より固有名詞の方が重要になる。
日本語でいえば、「齟齬」「反芻」「乖離」などより、「ミスド」「ファミマ」「ポッキー」を知ってる方が、日常会話ではるかに有用なのと同じ。固有名詞を避けていては、ネイティブ会話についていけるようにならない。 https://t.co/hYwTyTND6c
— macha@翻訳屋 (@natively_fun) November 7, 2020
逆にいえば、たとえ3万語覚えても、洋書や海外ドラマには知らない単語がたくさん出てくるということです。単語帳に載っている語彙はあくまで英語全体の一要素でしかないのですね。
学習効率が総じて低い
当然ながら、単語帳で勉強しているときは、基本的に単語力くらいしか身につきません(音声があるなら多少リスニングも)。一方、たとえば海外ドラマなら、リスニングや英語表現、文化背景などもいっきに学べますよね。その意味で、単語帳学習はレバレッジが効かず、時間あたりの学習効率があまり高いとは言えません。
単語帳をやるメリットはゼロ?
では単語帳ってぶっちゃけ、やる意味ないのでしょうか?
実はそうとも言い切れません。単語にはいくつか大切なメリットがあるからです。
手っ取り早くボキャビルできる
シンプルに既知の単語数を増やしたいだけなら、単語帳は一番の近道です。多読や多聴で1年くらいかけて身につく語彙力を、単語帳なら1~3カ月で身につけることも可能です。
(ただし、これは「日本語で意味がわかる」ということであって、「聞いてわかる」「自分で使える」「言葉本来のニュアンスがわかる」とはまた別の話です)
試験に出る単語を短期間で覚えられる
単語帳が一番効力を発揮するのは試験対策でしょう。英検やTOEIC、期末試験などでは通常、試験の範囲や傾向がある程度明らかになっています。「この単語帳から出題されます」と教えてくれているようなものなので、やった分だけ確実に得点アップにつながります。
弱点補強ができる
映画やアニメ、洋書などで英語を自由気ままに学んできた学習者の場合、自分の好きな分野に習得語彙が偏っているケースが多々あります。そういう人は、単語帳を使うと、抜け落としていた重要な語彙を効率的に拾うことができます。
単語帳学習に向いているのはどんな人?
以上のポイントを踏まえると、単語帳には向き不向きがあることがわかります。
英単語帳に向いている人
- TOEICや英検などテストを間近に控えた人(手っ取り早く試験対策をしたい人)
- 数カ月後に留学予定の人(覚えた単語をすぐに実践で使うアテがある人)
- 受験勉強が得意な人(基本的に暗記が得意な人)
- 多読や多聴だけでは補えない単語をカバーしたい人
英単語帳にあまり向いていない人
- じっくり時間をかけて本物の英語力を身につけたい人
- 日本語的発想ではない「自然な英語」を使えるようになりたい人
- 暗記学習が苦手な人(効率が悪いだけなのでやめましょう)
英単語帳は中級レベル以降でOK
とりとめのない言い方になりますが、単語帳は必要な人は使えばいいし、必要ないなら使わなくていい(むしろ使わない方がよい)ということです。
ちなみに「英語完全上達マップ」で知られる森沢洋介先生は、「4000~5000程度の基本単語を習得した時点で初めて、計画的なボキャビルに乗り出す」ことをお勧めしています(六ツ野英語教室サイト)。
まともな学習をしていれば、4000~5000程度の単語は自然に覚えてしまいます。短文暗唱や音読パッケージを中学レベルのテキストから始め、少しトレーニングが進んだ時点で2000~3000くらいの単語は覚えてしまうし、これに精読をいくらかやれば単語数は4000~5000語にすぐに増えるものです。単語の定着率が悪い人はバックアップとして、精読の際に同時にボキャ・リストを作り〈中略〉それを覚えていけば取りこぼしはありません。
つまり、初級~中級レベルの学習者に単語帳は必要ないというご意見です。
YouTubeやらKindleなど最近の英語学習環境の進歩を考えると、僕の感覚では9000語くらい(英検準1級程度)は単語帳なしでも身につくと思っています。
なんなら1万語以降も単語帳なしでいけると思いますが(僕自身がそうでした)、そのレベルの単語は多読や多聴での遭遇率がいっきに低くなるので、単語帳を部分的に取り入れた方がより効率的に習得することができます(やり方次第)。
単語帳のおすすめの使い方(コツ)
では以上のメリット・デメリットを理解した上で、あえて単語帳を使いたい場合、どんなことを心掛けておけばよいのでしょうか?
ポイントは5つあります。
弱点補強用のツールとして使う
普段はなるべく「多読」や「多聴」を基本にしつつ、抜け落ちた語彙を単語帳で部分的に補強するのがおすすめです。読書で何度も見たことがあるけど意味がはっきりわからない単語や自信がない単語などを、単語帳でカバーするようにしましょう。
全体の8~9割くらいわかる単語帳を買う
はじめて見る・聞くような単語を、単語帳でゼロからガツガツ覚えていくのは非効率です。「9割方知っているけど、知らない1割をおさえる」ために単語帳を活用するのがお勧めです。単語帳を選ぶときは、自分のレベルより1~2段階下げて(上級者なら中級者用を買う)、掲載語彙の8~9割がわかる簡単な単語帳から取り組むようにしましょう。
日本語と関連づけない
英語と日本語をリンクさせて覚える必要はありませんし、むしろ害悪です。英語を英語のまま理解できるようになるため、単語の意味を軽く確認したら、日本語訳はすぐに忘れるようにしましょう。おすすめは、英語圏のワードブックやピクチャーディクショナリー(絵辞典)を使うことです。
日本の出版社が出している単語帳なら、語彙の意味(日本語)ではなく例文の方を中心に覚えるようにしましょう。例文全体で意味が理解できれば、単語単位の日本語訳は忘れてしまって(あるいは見なくても)結構です。
イメージや「耳」から覚える
単語の意味を思い出すのに何秒もかかるようでは、「身につけた」とは言えません。瞬間的に意味がわかるレベルにまで落とし込むため、語彙はイメージ(絵)や音で理解するのがお勧めです。単語帳付属の朗読音声があれば何度もリスニングするようにしましょう。音声を聴いて瞬間的に理解できれば、「英語を英語のまま」理解できたということになります。
完璧主義を捨てる
同じ単語集を繰り返して記憶の定着率を高めるのは良いですが、完璧に覚えるまで10周も20周もする必要はありません。先述したように、単語帳だけでは正確なニュアンスはつかめるようにはならないので、「文脈やイラストなど他のヒントがあればすぐに思い出せる」程度にまでなれば十分です。あとは洋書や海外ドラマなどを通して、実践でその単語に出合う場数を増やすようにしましょう。
まとめ
単語帳学習は、アスリートにとっての「筋トレ」みたいなものです。
スポーツをやるうえで筋肉は確かに必要ですし、スポーツ選手はみんな「いい体」をしてますよね。
でも、いくら筋トレしても、スポーツ自体がうまくなるわけではありません。
逆にいえば、たとえ筋トレしなくても、日々のスポーツ練習を通して、体を自然に鍛えることも可能です。
語学も同じで、普段から英語を実践(ニュースやドラマ、洋書など)でバリバリ使っていれば、それに見合った単語力は自然に身につきます。
実践だけでは効率的に身につけられない語彙を単語帳を使って補強する、というのが僕のおすすめしたいアプローチです。
いかがでしたでしょうか。
単語帳学習について考えるきっかけになれば幸いです。
Thanks for reading!