ヘミングウェイ『老人と海』を英語で10倍楽しく読む方法

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macha

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英語学習アドバイザー。大学で英米文学専攻、大学院で言語学修士。英語教育の現場に携わり、現在は翻訳関係の仕事をしています。英検1級、TOEIC満点。
アーネスト・ヘミングウェイの晩年の名作『The Old Man and the Sea(老人と海)』といえば、一部の英語学習者の間では「ペーパーバックの入門書」として知られています。でも実際はそれほど簡単な英語ではなく、途中で挫折する人も少なくないようです。今回は、この中編小説を読破するにあたって、筆者が考案した「PTAMS(プタムズ)」という学習法を実践してみました。その結果をレポートします。

はじめに

『老人と海』について

  • この作品でヘミングウェイは1954年にノーベル賞を受賞したとされる。
  • ヘミングウェイらしい、簡潔な文体で書かれてる。
  • 総単語数は2万6600語なので(「ナビ付き洋書シリーズ」による)、小説としてはかなり短め。

この小説を選んだ理由

  • 英語で120ページ程度と短くて、挫折せずに読み切れそうだから。
  • ペーパーバック入門者におすすめという話なので。
  • よさそうな音声ファイルがネットにあった。(後述)

5つの方法を活用して徹底攻略しました

今回、PTAMS(プタムズ)という方法を使って、『老人と海』を読むことにしました。
PTAMSは多読・多聴をベースにした、ペーパーバックを10倍満喫するための学習法です。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

1.ペーパーバックを読む

まずは、『老人と海(The Old Man and the Sea)』の洋書を頭から読み始めました。

The Old Man and the Sea

Ernest Hemingway

(写真をクリックするとamazonのサイトへ飛びます)

そして、……すぐにめげそうになりました。
うーん、やはり小説の英語は難しいですね。
『老人と海』は入門者向けのペーパーバックなんて言われていますが、まったく入門向きではありません。

『老人と海』の英語が難しい理由

  • 主人公の心理描写や細かい動作の説明が多い。
  • 全体的に口語調のため、単語の省略が多い。
  • 漁業関係の単語がいろいろ出てくる。→解説しました!
  • もう使われていない表現も結構ありそう。←1952年出版の古い小説なので

たしかに、ヘミングウェイは新聞スタイルの簡潔な表現を好み、全体として短い文章が多いです。
難しい単語もぱっと見、それほど使われていません。
また場面の変化がほとんどないので、ストーリーの重要な展開さえ見逃さなければ、細かいところはよくわからなくても、なんとか読み進めることができます。
それに、小説自体の長さも短くて読みやすそうに見えます。

でも、やはり文学作品なので、普通のエンターテインメント系の小説に比べると格段に難しいです。少なくとも、TIMEやNEWSWEEKのニュース記事を読むより、はるかに難易度は上です。

わからないところを読み飛ばしながら読んでも、小説はあまり楽しめません。
そこで、次に説明するように、翻訳書を手に入れて、原書と並行して読み進めることにしました。

2.翻訳書を読む

読み始めて、思いのほか難しかったので、すぐに日本語版の助けを借りました。

使ったのは、以下の2冊。

老人と海 (光文社古典新訳文庫)

老人と海 (光文社古典新訳文庫)

(写真をクリックするとamazonのサイトへ飛びます)

小川高義さんの訳書は、評判どおり、すばらしいです。
意味のとれない文章があると、こちらの本の訳がどうなっているか、チェックしました。
直訳ではなく、どちらかといえば映画字幕のように、シンプルかつ大胆に意訳しています。
逐語訳だと正確かもしれませんが、読みにくいので、この本のようにある程度意訳してくれている方がよいです。
作家が伝えたいことをずばり端的に日本語で表現してくれているので、登場人物のせりふに込められた言葉のニュアンスまでイメージできました。

老人と海 The Old Man and the Sea【日本語ナビ付き原書】 (ナビつき洋書シリーズ)

老人と海 The Old Man and the Sea【日本語ナビ付き原書】

(写真をクリックするとamazonのサイトへ飛びます)

ネットで探すと英語学習用としての『老人と海』が出ていたので、古本で手に入れました。
残念ながら和訳や解説はほとんどないのですが、巻末の単語リストが便利でした。
小説中で使われている意味に一番近い単語訳が載っているので、辞書でいちいち調べるよりもはるかに楽でした。
(※出版社のサイトにはなぜか「TOEIC600点レベル」とありますが、どう考えてもTOEIC600点ではこの小説は読めないと思います)

この2冊のおかげで、意味を理解しながら原書を読破することができました。

3.オーディオブックを聞く

ペーパーバックを読むだけだと、あまり面白味がないので、音声でも「聞く」ことにしました。

YouTubeで以下の音源(無料)を見つけたので、空き時間に何度も聞き込みました。

The Old Man and the Sea – Narrated by Charlton Heston full audio book

この音声はとてもよかったです。
まず、朗読時間が2時間22分と、かなり短めです。
通勤・通学とかの時間を使って毎日30分ずつ聞けば、1週間で1週できます。

また朗読しているのは、チャールトン・ヘストン(2008年没)という、アメリカ人の有名なオスカー俳優(『ベン・ハー』『猿の惑星』など)。
(全米ライフル協会の会長をつとめ、マイケル・ムーアの映画『Bowling for Columbine』にも出てきました)
臨場感たっぷりに、抒情的に読み上げられていて、外国語を聞いていることを忘れるくらい、ストーリーに引き込まれました。
ちなみに、ヘストンはヘミングウェイと同じアメリカのイリノイ州出身なので、ひょっとしたらなまりも近いのかなーと思います。

筆者は毎日、移動時間やランニングのときに聞いて、トータルで20周以上はしました。
ペーパーバックだと20回も読む気にならないので、耳からのインプットはおすすめです。

4.ムービーを観る

『老人と海』は映画化もされています(1999年公開)。
アカデミー賞・短編アニメーション部門を受賞したショートフィルム(約20分、字幕なし)がYouTubeに上がっていたので、一度だけチェックしました。

The Old Man and the Sea – A Film by Alexander Petrov

約20分の短い映画なので、細かい部分ははしょられていますが、全体としては、ストーリーの基本的な流れやせりふがかなり忠実に再現されています。
文字を追うだけでは船の大きさとかいまいちイメージがつかめないところがあったのですが、この映画を見ることで解決しました。
ネタばれを気にしないのであれば、最初にこの映画を見てから、ペーパーバックや翻訳書を読む、という流れでもよいかもしれません。

5.スタディーガイドで「学ぶ」

もっとストーリーについて詳しく知りたいと思い、以下の二つのスタディーガイドがネット上にあったので、目を通しました。
小説だけ読んで終わりにしないで、スタディーガイドも合わせて読むことで、理解が深まりました。(本もありますが、サイト上で無料で読めます)

SparkNotes

サイト http://www.sparknotes.com/lit/oldman/summary.html

(写真をクリックするとamazonのサイトへ飛びます)

CliffNotes

サイト https://www.cliffsnotes.com/literature/o/the-old-man-and-the-sea/book-summary

(写真をクリックするとamazonのサイトへ飛びます)

「SparkNotes」と「CliffNotes」は、どちらもアメリカの高校生御用達の「教科書ガイド」です。
作品のテーマやあらすじはもちろん、登場人物の解説や、作家の生い立ちや作風、批評のポイントなど、気になる点を網羅的に解説してくれています。

アメリカの高校では、「国語(English)」の授業で古典文学がテキストとして使われるので、教科書ガイドの需要があるんですね。

『老人と海』の場合は、両社ともガイドを出しています。
どちらか片方を読むだけでもいいと思いますが、両方を読むと、またそれぞれに違う解釈があって、興味深かったりもします。

スタディーガイドを使うメリット

  • 作品の理解が深くなる。読む楽しみが増す。うんちくが語れるようになる。
  • 小説の散文とは違った、アカデミックな英語表現が学べる。

純文学の作品はいうまでもなく、結構難しかったります。(←だから授業のテキストになっている)
たとえば筆者の場合、『老人と海』では、最初と最後にしか出てこない少年マノリンはどういう役割なのかなど、いまいちよくわかりませんでした。
でもスタディーガイドの解説を読むことで、この作品にキリスト教的な意味合いが込められているとわかりました。

こういうのは英語力というより、文化的な知識や教養なので、日本で普通に生活していてもなかなか身につきません。
そういうところも含めて、作品のモチーフやシンボル、メタファー、社会背景などを、プロの批評家がネイティブ向けに容赦なく解説してくれているので、英語の勉強に終わらない、いろんな気づきがありました。
(※もちろん批評家の分析がいつも正しいとはかぎりません)

まとめ

ヘミングウェイの写真

skeeze / Pixabay

というわけで、5つの方法を使って、目や耳をフル活用してアーネスト・ヘミングウェイの名作『老人と海』を堪能しました。

学習時間

結局、仕事で忙しくてまったく読めない時期もあったので、トータルで3カ月くらいかけてペーパーバックを3周くらいしました。
結構時間がかかったのは、はじめは「精読」に近い感じで、一文一文丁寧に読んでいったから。
オーディオブックは流し聴きなので、軽く20周はしたと思います。

『老人と海』を英語で読んで得たもの

自分なりに得たものを振り返ると。

  • ネイティブが「お手本」としているヘミングウェイの美しい文体がどんなものかわかった。
  • 海(漁業、船、魚)関連のボキャブラリーが増えた。
  • アメリカ英語の口語表現やイディオムに少しだけ強くなった。
  • 漁師の生活ぶりや思考などがわかった。

1冊読破しての感想

短い小説なので、これ1冊を読んだからといって英語力が劇的に向上したわけではないと思います。
でも最初に読んだときに難しく感じたヘミングウェイの英語が、今ではほとんどつまずかずに、すらすら読めるようになりました。
しばらく期間をあけたあと、ペーパーバックだけを読み直したら、4時間程度で快適に読破できました。
またこのハイレベルな英語を耳から聞き取れるようになったのも、すごいことだと感じています。

PTAMSはなかなか根気が必要ですが、自力では読めなかったペーパーバックをじっくり、深く、楽しく読むためのベストな学習法です。
ぜひ古典文学を英語で読んでみたいという方は、チャレンジしてみてください。

またほかのペーパーバックでPTAMSを実践したら、レポートしたいと思います!